VOC規制に対応するディップコーティングの方法とは?

ディップコーティングを行う製造現場において、VOC(揮発性有機化合物)規制への対応は避けて通れない課題です。

規制クリアと環境負荷低減を実現するためには、主に「塗料そのものを変える根本対策」と、「発生したVOCを処理する対症療法」の2つのアプローチがあります。

今回は、ディップコーティングにおける主要なVOC対策と、その具体的な導入方法について解説します。

VOC規制をクリアする「塗料変更」

発生源から断つ根本対策

塗料の溶剤に含まれるVOCの排出を根本的に抑制する最も効果的な方法は、VOC含有量が少ない、または全く含まない塗料へ切り替えることです。

塗料を変更することは、排気処理装置のランニングコストが不要になり、作業環境改善に直接繋がる「根本対策」となります。

主要な低VOC塗料の種類と比較

VOC対策として主に選択される低VOC塗料には、以下の種類があります。

  • 水性塗料
    溶剤(VOC)の代わりに水を主成分とする塗料。最も一般的な代替策ですが、乾燥に時間がかかるため、乾燥炉の大型化や温度管理の徹底が必要になる場合があります。
  • ハイソリッド塗料
    溶剤の量を減らし、樹脂成分(固形分)の割合を大幅に高めた塗料。溶剤系に近い塗膜性能を維持しやすい反面、塗料自体の粘度が高くなるため、ディッピング条件(引き上げ速度など)の調整がシビアになることがあります。
  • 粉体塗料
    溶剤を一切含まない粉状の塗料。VOC排出量はゼロですが、ディップコーティングの設備としては、静電粉体塗装用の特殊な浸漬槽や焼付設備が必要となり、大規模な設備投資を伴います。

ディップコーティングの排気処理はどう行うべきか?

今の品質を維持する選択肢

長年培った技術やノウハウ、あるいは製品の品質基準の制約から、従来の溶剤系塗料から低VOC塗料へ安易に切り替えることが難しいケースも多くあります。

このような場合、現在のディップコーティングプロセスや使用塗料を変更せずに規制に対応できるのが、排気処理装置の導入です。

これは、「今の品質や工程を維持したまま、排出されるVOCガスだけを無害化する」というアプローチです。

代表的な処理装置「燃焼式」と「吸着式」

既存の溶剤系塗料を継続して使用する場合、排気されるVOCガスを処理するために、主に以下の2種類の装置が用いられます。

  • 燃焼式(RTO・脱臭炉など)
    燃焼式は、VOCを含む排ガスを高温(通常700~800℃)で燃焼させ、VOCを有害性の低い二酸化炭素(CO2)と水(H2O)に分解します。
    処理効率が非常に高い(98%以上)ため、VOC排出量の削減効果が大きく、排ガスの濃度が変動しても対応しやすいのが特長です。
    一方で、装置導入コストが高く、稼働には大きな熱エネルギーが必要となるため、ランニングコストも高くなりがちです。
  • 吸着式
    吸着式では、VOCを活性炭やゼオライトなどの吸着材に通し、VOC成分のみを吸着・除去します。
    装置がシンプルで初期コストが抑えられますが、吸着材が飽和すると交換または再生が必要です。
    吸着材の交換コストや、再生にエネルギーが必要となるため、定期的なメンテナンスコストが発生します。
    主にVOC排出濃度が比較的低い場合に適しています。

まとめ

ディップコーティングのVOC規制対策は、企業の状況によって最適解が異なります。

VOC排出の根本を断ちたい場合は「塗料変更」を、品質やプロセスを最優先する場合は「排気処理装置の導入」を検討する必要があります。

重要なのは、各選択肢のメリットだけでなく、コスト、品質、環境負荷といったデメリットも比較検討し、自社の生産体制と経営戦略に合致した最適な対策を講じることです。

当社では、安全に配慮したディップコーディング装置の開発、レンタル、受託コーディングを行っております。

ご検討の際は、ぜひご相談ください。