ディップコーティングは、対象物を塗料に浸して引き上げるだけで均一な塗膜を形成できる、優れた塗装方法です。
しかし、そのシンプルさゆえに、量産ラインにおいては些細な条件変化が品質のばらつき、すなわち歩留まりの低下に直結しやすいという側面も持っています。
安定した生産を実現するためには、不良の根本原因を正しく理解し、効果的な対策を講じることが不可欠です。
今回は、ディップコーティングの量産ラインでよく見られる不良要因を分析し、明日から現場で実践できる具体的な歩留まり改善のアクションについて解説します。
品質の安定化に悩む現場担当者の方にとって、課題解決の一助となれば幸いです。
ディップコーティングで歩留まりを低下させる不良要因とは?
歩留まりを低下させる品質不良は、大きく「膜厚のばらつき」と「外観不良」の二つに分類できます。
これらは互いに関連しあうこともありますが、原因を切り分けて考えることが改善への第一歩です。
膜厚のばらつき
製品の機能や性能を保証する上で、塗膜の厚みを一定の範囲内に収めることは極めて重要です。
膜厚がばらつく主な要因は以下の3つです。
- 塗料の粘度変化
塗料の粘度は膜厚を決定づける最も重要な要素であり、作業環境の温度上昇は粘度を下げて膜を薄くし、逆に溶剤の揮発は塗料を濃縮させて粘度を上げ、膜を厚くします。この粘度変化の管理不足が、ばらつきの最大の原因です。 - 引き上げ速度の不安定さ
一般的に、引き上げ速度が速いほど膜は厚くなり、遅いほど薄くなるため、装置のモーターの個体差や経年劣化による速度のブレ、搬送時の振動などが意図しない膜厚のムラを引き起こします。 - ワークの形状や向き
平滑な板とは異なり、複雑な形状の製品では液が溜まりやすい凹部や、逆に流れ落ちやすい凸部で膜厚が不均一になりがちです。
外観不良
膜厚が規格内であっても、見た目に問題があれば不良品となります。
代表的な外観不良の原因は以下の通りです。
1つ目は、液だれやタレです。
これは特にワークの下端部に塗料が溜まり、垂れたような跡が残る現象で、塗料の粘度が低すぎる、乾燥が遅い、ワークの端部に塗料が溜まりやすい形状であることなどが原因です。
2つ目は、気泡やピンホールです。
塗膜に気泡が残ったり、それが破れて小さな穴になったりするこの不良は、塗料撹拌時の空気の巻き込み、ワーク浸漬時の速すぎる速度、あるいは前処理不足によるワーク表面からのガス発生などが考えられます。
3つ目は、異物やブツの付着です。
これは最も頻繁に発生する外観不良の一つであり、工場内に浮遊する塵埃、作業者の衣服から脱落する繊維、塗料内部で発生した凝集物などが主な発生源となります。
歩留まり改善のための具体的アクション
不良要因を特定したら、次はその対策です。
感覚や経験に頼るのではなく、具体的な管理手法と仕組みづくりによって、品質を安定させることができます。
パラメータ管理の徹底
ディップコーティングの品質は、いくつかの重要なパラメータ(数値)によって決まります。
これらを「見える化」し、管理することが歩留まり改善の核心です。
まず、粘度と温度をセットで管理することが重要です。
粘度は温度に大きく左右されるため、必ず定期的に粘度計と温度計で測定し、数値を記録します。
次に、引き上げ速度を感覚ではなく数値で管理します。
装置の速度設定を標準化し、設定値通りに動いているか定期的に実測してズレがないかを確認します。
そして、乾燥条件、すなわち乾燥炉の温度とワークが炉内を通過する時間を固定し、常に一定の条件で乾燥できるよう標準化することも不可欠です。
これらのパラメータ管理が品質安定の基礎となります。
4Mの視点で見直す作業標準と環境整備
品質管理のフレームワークである「4M(人、機械、方法、材料)」の視点から、作業全体を見直すことで、不良の発生源を根本から断つことができます。
「人(Man)」については、スキルや勘に頼らず、誰が作業しても同じ品質を維持できる写真や図を用いた分かりやすい作業標準書を作成し、遵守を徹底します。
「機械(Machine)」に関しては、装置の日常点検リストを作成して始業前点検を習慣化し、トラブルの予兆を早期に発見します。
「方法・材料(Method/Material)」の面では、塗料の撹拌時間やワークの洗浄方法など、これまで暗黙知だった作業のルールを明確に文書化し、材料のロットや使用期限の管理も徹底します。
最後に「環境」として、異物不良対策の基本である5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を徹底し、異物の発生源そのものを減らしていきます。
まとめ
ディップコーティングにおける歩留まりの改善は、まず「膜厚のばらつき」や「外観不良」といった現象の根本原因を正しく突き止めることから始まります。
そして、特定した原因に対して、「パラメータの数値管理」と「4Mの視点での作業標準化」という両輪でアプローチすることが重要です。
一つの対策で全てが解決するわけではありません。
日々の地道なデータ測定と記録、そして決められたルールを全員で守るという活動を継続することが、結果的に安定して高品質な製品を生み出す量産ラインを築き上げます。
今回ご紹介した視点を参考に、ぜひ自社の工程改善にお役立てください。
当社では、安全に配慮したディップコーディング装置の開発、レンタル、受託コーディングを行っております。
ご検討の際は、ぜひご相談ください。
