薄膜形成や表面処理のプロセスにおいて、「どの塗布方式を採用するか」は製品の品質とコストを左右する最初にして最大の分岐点です。
スピンコート、スプレーコート、ロールコートなど様々な手法がある中で、なぜ今、古くからある「ディップコーティング(浸漬塗布)」が、最先端の光学部品や医療機器、自動車部材の製造現場で再評価されているのでしょうか?
本記事では、他の主要な塗布方式と比較しながら、ディップコーティングが選ばれる技術的な理由と、導入のメリットを解説します。
1. 圧倒的な「材料利用効率」:高価な塗料を捨てていませんか?
ディップコーティング最大の特徴は、「材料ロス(廃棄)が極めて少ない」点にあります。
- スピンコートの場合:
回転による遠心力で液を広げるため、滴下した薬液の90%以上が基板の外へ振り落とされ、廃棄されます。フォトレジストや貴金属を含む高価な機能性塗料の場合、このロスは莫大なコスト増となります。 - スプレーコートの場合:
霧状に噴射するため、対象物に付着しない「オーバースプレー」が避けられません。また、飛散した塗料を回収・処理するための高額な排気設備が必要になります。 - ディップコートの場合:
タンクに溜めた塗料にワークを浸し、引き上げるだけです。ワークに付着した分以外はそのままタンクに戻るため、材料利用効率は理論上ほぼ100%に近づきます。
【SDIの視点】
SDIでは、タンクの設計形状をワークに合わせて最適化することで、必要な初期充填量(デッドボリューム)を最小限に抑える提案も行っています。「1g数万円」といった高価な試薬を使うR&D現場で、この差は歴然です。
2. 「異形・複雑形状」への対応力:平らな板以外も塗れる
製品のデザインが高度化・複雑化する現代において、「平面」しか塗れない工法は選択肢から外れつつあります。
- スピンコートの限界:
原則として「円形のウェハ」や「四角いガラス基板」などの平板にしか対応できません。立体物に回して塗ることは物理的に不可能です。 - スプレーコートの課題:
立体物にも塗れますが、「影(シャドウ)」になる部分、つまりスプレーの直線軌道が届かない裏側や奥まった凹部には塗膜が形成されません。 - ディップコートの強み:
液状の塗料の中にワークごと沈めるため、液が入り込む隙間さえあれば、どんなに複雑な3D形状であっても全面に塗布できます。
パイプの内面、多孔質材料の内部、凹凸の激しい3Dプリンター造形品なども、隙間なくコーティング可能です。
【SDIの視点】
複雑形状の場合、引き上げ時の「液溜まり」や「液ダレ」が課題になりますが、SDIの装置は多段階の変速制御(0.1mm/sec単位)や、ワークの角度を変える多軸ロボット制御により、異形ワークでも均一な成膜を実現します。
3. 「両面同時成膜」による生産性向上
製造工程のタクトタイム短縮において、ディップコートは大きな武器になります。
- 他工法の場合:
スピンやスプレーは基本的に「片面処理」です。両面をコーティングする場合、「表面を塗る→乾燥させる→裏返してセットする→裏面を塗る」という2倍の工程と時間が必要になります。 - ディップコートの場合:
一度の浸漬・引き上げ動作で、表と裏、さらには側面(エッジ)まで同時にコーティングが完了します。
さらに、一度に複数のワークを治具に吊るして処理する「バッチ処理」も容易なため、量産時のスループット(処理能力)を劇的に向上させることができます。
比較まとめ:各工法の得意・不得意
| 項目 | ディップコート | スピンコート | スプレーコート |
|---|---|---|---|
| 材料利用効率 | ◎ (高い) | × (低い・9割廃棄) | △ (飛散ロスあり) |
| 対象形状 | ◎ (複雑・立体・管) | × (平面のみ) | ◯ (立体可・影不可) |
| 膜厚均一性 | ◯ (制御に依存) | ◎ (極めて高い) | △ (ムラになりやすい) |
| 両面同時塗布 | ◎ (可能) | × (不可) | × (不可) |
| 設備コスト | ◯ (比較的安価) | ◯ (安価) | △ (排気設備が高額) |
結論:ディップコートの「弱点」を克服したSDIの技術
一般的にディップコートは「膜厚のコントロールが難しい(上部が薄く、下部が厚くなる)」と言われることがあります。しかし、それは過去の話です。
株式会社SDIのディップコーターは、ナノレベルの超低速引き上げ制御と無振動機構により、スピンコートに迫る高精度な膜厚制御を実現しています。「材料を無駄にしたくない」「複雑な形に機能を持たせたい」──その課題、SDIの技術が解決します。